安仁屋 雅一
戦後間もない頃、私の父はテント小屋の小さな店をつくり、母とともに商いを始めた。私はその店を受け継いだ。
私が幼い頃、祖父母の家には、中国で書かれた先祖の肖像の大きな掛け軸があった。(今なら骨董品であるが戦争で失った)祖母はいつも私に、「あなたは、あの肖像によく似ている。あなたもきっと偉くなるよ。」と言われた。またある日、全く見知らぬ古兵殿が何とはなしに私を見て、「あなたは必ず成功する。」と言われた。その言葉は、私に大きな励みを与えたものである。そのことから、私は運が開けているのだという自信 をもったのである。
私が商人になる決意をしたのは25歳の時である。商売は順調に発展した。商売が順調であったから、商売が楽しくて仕様がなかった。楽しいものだからよく働いた。努力もし、勉強もした。
そんな時に私は岡田徹の詩を見つけた。それは「小さな店であることを恥じることはないよ、その小さな、あなたのお店に、人の心の美しさを一杯に満たそうよ。」と、また、新保民八の「正しきによりて滅びる店あらば滅びてもよし、断じて滅びず。」と、この二つの詩は私の心を強く打った。これが商人の道だと心に強く銘じて更に一生懸命励んだ。その甲斐あって、テント小屋の小さな店からトタン葺きの店へ、そしてブロック建の店へ、3階建から4階建へ、更に6階建の社屋を築いた。そして個人商店から会社組織にして、社員も50名になった。それは30代のことである。その時代に、商人の道を模索して次の4つのことばを考えた。
1.よい人:勤倹力行、誠意のある人。よい人間がよい仕事をするものだ。
企業は永遠に経営活動を遂行し続けなければならない。創業三百年の歴史をもつという企業は、永続を図るために制定された家訓を受け継いで永遠と発展している。2.よい品:売れ残らぬものはよい品である。
3.よい値:お客から高いと思われず信用を得ることがよい値である。
4.よい店:店はお客のためにある。よい人、よい品、よい値のそろった店がよい店である。
現代は激動の時代、変化の時代、予測の立たない難しい時代である。こういう時期に社業を引き継いだ。
息子よ、やるべき仕事が決まったら成し遂げるまでやめないことだ。書かれなければ何事も成し得られないのだ。
息子よ、先に述べた4つのことばは平凡ではあるがその心を探し当て、掴みとって、永代受け継がれる経営理念を確立して貰いたいものだ。発展することを願ってやまないものである。